一本一本にそれぞれの個性や書き味の違いがあり、集めはじめたらキリがないのが万年筆。あれもこれもと手に取っているうちに沼に落ちていく輩の多いカテゴリーで、かく言う私も以前は万年筆沼に落ちかけた一人であって、自分の手にあった最高の1本を手に入れるためなのか何の為なのか分からないまま、深い沼へと飛び込んだ時期がありました。
ぶっちゃけ私自身万年筆にハマってからの歴史は浅く、歴史としては確か2013年〜2014年あたりに初めての万年筆を購入したところからスタートしたのでまだ7年程度。最初の1,2年で4,5本の万年筆をお迎えして、浅瀬でほどほどに楽しむ時期が数年続いてましたが、ある日突然浅瀬から深みに飛び込んでしまったことを覚えています。
私が飛び込んでしまったのは2017年から2019年前半にかけて。特に2018年に関しては週に1本ずつ万年筆が増えてましたので、あの頃は本当にどうかしてたと思います。
万年筆を選ぶポイントは様々で、軸のサイズや重心バランス、デザイン、軸やペン先の素材、字幅など複数の要素があるため混乱してしまいがちになりますし、そこにビンテージという年代要素が加わると収拾がつかなくなります。
最近もっとシンプルに考えても良いのかもしれないと思うようになりましたので、今回は万年筆選びをよりシンプルにするための分類についてお話を致します。
万年筆選びをよりシンプルにするための分類について
万年筆を大きく4つに分類すると、綺麗軸、透明軸、木軸、そして仏壇軸の4つにカテゴライズされます。それぞれ特徴があるので説明していきます。
綺麗軸
まず綺麗軸。マーブル調やキラキラとした万年筆、またボディ全体を特殊加工して美しく魅せる万年筆のことを綺麗軸と呼びます。
私自身、以前は綺麗軸にはあまり興味がなかったのですが、ペリカンのスーベレーンM800ルネッサンスブラウン(右から3番目)を一目惚れして購入してしまった頃から、少しずつ綺麗軸が増えはじめました。
綺麗軸が良い理由は何と言っても保有する喜び。欲望の赴くままに、好みの色、好みのデザインの軸をチョイスしてお迎えすることで、どんなに辛いことがあっても一瞬ではありますが全てを忘れることが可能です。また本当に欲しい綺麗軸を計画的にお迎えした際は格別ですよね。購入するエピソードが思い出となり一生の宝物となること間違いありません。
なお、綺麗軸の中でもマーブル調のものは一本一本の個体差があります。一つ一つが異なる表情を持っていますので、異なる表情の中で自分好みの一本を見つけ出す楽しみもあります。
ちなみにごく稀にですが、綺麗軸は2本ずつ購入される輩もいらっしゃいます。使用する綺麗軸と保管する綺麗軸で2本ですね。冗長化という考え方はIT業界では当たり前のこと。もし何らかのトラブルが発生して1台のサーバーが止まってしまっても、もう一台のサーバーが待機していれば最悪のケースを免れることができます。本当に大切にしたい綺麗軸は2本ずつ用意するのもありなのかもしれません。
手始めに綺麗軸の定番アウロラのオプティマなどはいかがでしょうか。
透明軸
続いて透明軸。透明軸のメリットは何と言っても軸がスケルトンで中の構造やインクが見えること。そして飲ませるインクの色によってボディ全体の表情が大きく変わることです。
中にはデモンストレーターモデルといって万年筆の中の構造を見学できるモデルもあります。
以下の写真はデモンストレーターモデルの代名詞であるペリカンスーベレーンM205。
ピストン吸入式でのインク注入を学べる一本になっていますので、ご自身で万年筆を学ぶ際・お友達に万年筆を説明する際に一本持っておくととても便利です。
以下はTwsbiという台湾のブランドの透明軸万年筆。Twisbiの機構も面白いし、インクを飲ませると一気に表情も変わるので、インク遊びと一緒に楽しんでいきたいですね。
透明軸は飲ませたインクの色や、インクの残量が一目でわかるのも魅力の一つ。
なお、万年筆のインク注入はコンバーター式とピストン吸入式に分類されるのだけど(細かくいうとカードリッジ式タイプもある)、透明軸においてオススメなのはボディ全体がインクタンクとなるピストン吸入式タイプがオススメ。ピストン吸入式だとインクの色がしっかり反映されるんです。
コンバータータイプはボディ+コンバーターとインクにたどり着くまでにワンクッション置くためインクの色自体は見づらくなってしまいますが、コンバーターに絵が描かれていて楽しめたり、コンバーターの色自体にこだわりがあるものも存在しますので、そういった部分を楽しむのも良いかもしれません。
こちらの2本はプラチナ万年筆の透明軸で、手前の一本はプラチナ100周年の際に銀座伊東屋とコラボして限定発売されたもの。コンバーターに富士山が描かれています。奥はプラチナとナガサワがコラボして作ったセンチュリースケルトン(略称:センスケ)のピンクゴールド仕上げ。ペン先の色からリング、コンバーターまでピンクゴールドで統一されているので美しいですよね。
木軸
続いてはボディ全体やキャップなど一部が木を使って作られた木軸と言われる万年筆。
木軸万年筆の大きな魅力は二つあり、まず何と言っても木の質感や手触りです。温もりを感じられますので、冬場寒い時などは個人的にも使用頻度は高くなりますね。
もう一つは育軸ができること。木という素材は経年変化して使い込んでいくうちに艶を増していきます。そういった変化は愛着がわいてきますので、木軸愛好家の中には定期的なメンテナンスを施して、ボディ全体を美しく艶のある表情に育てられている方もいらっしゃいます。
定期的に拭いてあげたりワックスを少し塗ってあげたりと手間はかかりますが、エイジング(経年変化)していく工程は使い手にとって本当に楽しく、愛着の持てる一本となること間違いありません。
なお、木軸において注意したいのはインク汚れ。
一般的な万年筆はボディにインクが付いてしまってもボディ全体を洗い流せますが、木軸に染み付いてしまったインクは簡単に落とせません。かく言う私も気付かないうちに木軸ボディをインクで汚してしまったことがあり、染み付いてしまったインク汚れは簡単には落ちません。
見えますでしょうか。キャップについたインク汚れ。インクが付いてしまったタイミングですぐに気づいて拭き取れればよかったのですが、インクが付いてしまったことに気づかず数日放置してしまったんです。
水洗いはできませんので、消しゴムでこすったりしてみましたが汚れは取ることができず、次の手段として表面をペーパーヤスリで少し削ってみようかと悩んでいるところです。
こういったトラブルもありますので、木軸は他の万年筆と比較して手のかかる万年筆であることは間違いありませんが、そういった問題も含めて育軸と呼ぶのでしょうね。
ちなみに木軸を初めてお迎えするのであれば、パイロットのカスタムカエデなど良いかもしれません。
仏壇軸
最後にオススメするのはブラックボディにゴールドトリムな組み合わせの通称仏壇軸と呼ばれている万年筆。仏壇軸こそが万年筆のデファクトスタンダードであり、多くのブランドが仏壇軸を主力製品としてラインナップしています。
パイロットで言えばカスタム74、742、743。プラチナセンチュリー、セーラープロフィットやプロフェッショナルギアなどなど。海外ブランドにおいてもモンブラン・ペリカン・アウロラはじめ各ブランドが仏壇軸をラインナップされていますね。
正直なところ、万年筆に興味を持ち出したころ、この仏壇系万年筆に対しては全く興味が持てませんでした。各ブランド・各文具屋でまずはこの辺りとオススメされるのが仏壇系のラインナップ(カスタム74、プラチナセンチュリー)あたりなのですが、言葉選ばずに言うとおじさん臭く感じたんですよね。まあおじさんが使うんだから良いじゃんってところなんですけど、妙に堅苦しいと言うかダサいと感じたのが本音。
とは言いつつ、現在では保有万年筆の約1/3が仏壇軸な訳ですが、仏壇軸のメリットは筆記に集中できることなのかなと感じています。上記の綺麗軸や透明軸、木軸については筆記する以外の部分においても楽しみを見いだせるわけですが、黒×金というシンプルな仏壇軸においてはそういった楽しみはありません。とにかく筆記に集中するのみです。
と、そんな風に考えていた時期もあったのですが、一つ一つの仏壇軸をよく見ていくとそれぞれに様々な特徴やこだわりがあり、シンプルな構成なのにとても美しく感じられるものも存在します。
左からペリカンスーベレーンM600、アウロラ88オタントット800、モンブランマイスターシュテュック146。シンプルな仏壇軸なのにボディ全体のラインやペン先とボディとのサイズバランス、リング・クリップ・天冠など、各社のこだわりが伝わってきます。
個人的に好きなのは長年愛用しているモンブラン146のバランスが素晴らしく好きですね。
なお、黒×金の仏壇軸ではありませんが、同じようなシリーズとして黒×銀の組み合わせの万年筆も存在します。
同じシンプルな構成であっても黒×銀の方がスッキリと締まってスタイリッシュというか都会的に見えますね。(僕だけかな?)ちなみに黒×銀の構成における仏壇軸のような呼び方はなさそうです。
なお保有万年筆の中でブラック×シルバートリムの万年筆で好きなのはこれ。ウォーターマンのカレンです。
ペン先エロいでしょう?
仕事でも万年筆を使いたくなることはあるのですが、一般的なペン先の万年筆だと周りの注目を集めてしまうというか、シーンによっては少し浮いてしまう事もありますが、カレンであればスタイリッシュに決められます。
ペン先はガチニブ、しっかりとした固めの書き味ですから、多少書きなぐっても影響ありません。美しさと実用とを兼ね備えた万年筆だと思っています。
まとめ
今回は普段とは違った万年筆の選び方をお話ししてみましたがいかがでしたでしょうか。
万年筆は長く使っていくものですから、やはり自分が一番気に入ったものを使い続けたいですよね。デザインや素材的に愛着の持てる一本を探し出すのも本当に面白いですよ。
万年筆を選ぶ上で書き味にこだわるのは当然ですが、書き味は調製師にお願いすれば後から調整が効くもの。お気に入りの一本を見つけましょう!
2 件のコメント
木軸についたインクの染みはカビキラー等の漂白剤を少しつけると落ちますが逆に白っぽくなることもあります。
ギャラリーさん、コメントありがとうございます。
カビキラーでそういった効果があるのですね。参考になります^^