今年も年賀状の季節がやってきました。万年筆で気持ちを込めた手書きの年賀状を送ろうと考えている方も多いのではないでしょうか。
年賀状や手紙など、郵便で送り届ける書類や長期保存しておきたい書類などに万年筆で筆記する際は、一般的な染料インクではなく顔料インクを使用します。
一般的な染料インクは水で流れやすく、郵送の途中で雨などで濡れて文字が滲んで読めなくなってしまうといったトラブルの原因にもなる為です。その点顔料インクは水に溶けにくいという特性を持っているとともに、耐光性にも強く長期保存にも適したインクとされています。
そのような素晴らしいメリットがある反面、顔料インクのデメリットもあるわけで、万年筆に顔料インクを入れっぱなしにして放置してしまうと内部でインクが乾燥し固まってしまい水で流せなくなる(平たく言えばインク詰まりを起こして書けなくなる)・・・というトラブルの危険性を持ち合わせています。
日々万年筆を使用する、使わない期間はインクを抜いてあげるというようなメンテナンスを怠らなければ問題ありません。どれくらい放置するとNGかは万年筆にもよるので一概には言えませんが、一週間、二週間放置する程度であれば特に問題なく使用できるかと思います。しかし数ヶ月放置など使用しない期間が長くなればなるほどトラブルの原因となりますので、年賀状の季節が終わったらインクを抜いてあげるなどの配慮は必要です。
さて顔料インクの黒を購入する際に候補に挙げられるものは、プラチナカーボンブラック、セーラー極黒、モンブランパーマネントブラックの3つです。他にもありますが、入手しやすいという観点でこの3つでしょう。
この3つを比較してみましたので、顔料インクを検討する際ぜひ参考にして下さい。
万年筆用顔料インクの比較
今回比較したのは、インクの色比較、耐水性、乾き、裏抜け、コストの5つです。
早速見ていきましょう。
色比較(本当に黒い顔料系ブラックは?)
まずはインクの色。比較するインクは全て黒ですから面白みは感じられない、どれでも良いと考えてる方が多いと思いますが、黒もこだわるとそれぞれ特徴があって面白いです。
光沢のある黒、マット感のある黒、黒ではあるが若干の赤みや青みを感じたり、また少しグレー系の黒も存在したりします。
下の写真は私が保有するブラック系インク(顔料・染料混在)の色見本。
色見本といっても写真では繊細な色合いが表現できず黒が並んでいるだけの写真になりますが、実際にこの比較表を見るとだいぶ違いがわかるかと思います。30種類以上の用紙を使って色だけでなく裏抜け、紙とインクの相性などの検証も行なっています。
それでは早速試してみましょう。用紙によって見え方が異なるため、複数の用紙でテストしてみます。
上からモンブランパーマネントブラック、セーラー極黒、プラチナカーボンインクです。
下の塗りつぶし部分も、左からモンブラン、セーラー、プラチナの順番。
写真だと判りづらいですが、この3種類ではより黒に近いインク(濃い黒)は、モンブランパーマネントブラックとプラチナカーボンインクブラックが五分五分で、セーラー極黒は他の2つと比べると若干薄めの黒という結果になりました。
また、紙が変わると別の結果になる可能性もある為、複数の用紙にて比較は行いましたが同じ結果となりました。
尚、色を確認する上で試しておきたいのが、ペーパークロマトグラフィーです。これを行う事で、インクの中に何色の色素が含まれているのかを確認することができます。
こちらは染料系も含めブラックインクをペーパークロマトグラフィーにかけた時の写真ですが、黒のインクといっても黒以外の色素が入っていることが伝わるかと思います。
下の写真が、今回の顔料系ブラックインクのペーパークロマトグラフィーの結果。
いずれも黒系統の色素のみで、それ以外の色素は見つかりませんでした。
耐水性・水に濡れてもインクが流れないのはどれ?
続いての検証は耐水性です。
顔料インクを使う大きな理由は、万が一水に濡れても文字が流れないこと(消えないこと)です。実際にどの程度の耐水性を保有しているのか、2つの実験を行ってみました。
1つ目の実験は、それぞれのインクで筆記した文字の一部を、水筆で水を使って溶かします。
2つ目の実験は、書いた用紙を水道で流してみます。
水筆で上からなぞって文字の溶けを確認
以下の結果となりました。
使用した用紙は、左が年賀状ハガキ(インクジェット用)、右がヌルリフィルです。
モンブランパーマネントインクとセーラー極黒は水筆で溶かしてみると少し溶けますが、プラチナカーボンインクは全く溶けず一番耐水性が高いことが確認できました。
この状態から水道水で流してみましょう。
強めに2分ほど水を当ててみたところ、少量のみインクが流れる部分はありつつもしっかりと筆跡は残っていました。
水で流した後の色の変化やインクの流れ具合から見て耐水性が高い順に並べると、プラチナ → セーラー → モンブランという順番になりそうです。
ただし、どのインクもしっかりと耐水性を持っているという確認が取れました。この結果であれば水害に会っても安全と言えるでしょう。
尚、耐水性が低めの顔料インクは、その分インク詰まりを起こしにくいと聞いたことがあります。ただ、この結果だけを観ると正直大差はなく、どのインクでも扱いを間違えれば万年筆の中で固まってしまいトラブルの原因に繋がるのではと感じます。
速乾性
続いては乾きの速度。乾くのに時間がかかってしまうと、次の行に進めなかったり重ねておくことが出来ず時間がかかる原因となったり、また汚してしまう原因となります。
今回の検証では、各インクにて「東京都品川区大崎」と筆記し、20秒後・40秒後・60秒後にティッシュで拭いてみて、どの程度乾いているかを確認します。
※平等性を高めるためにガラスペンを使用してみたところ、インクを付ける量によって誤差が生じてしまいキチンとしたデータが取れませんでした。20秒よりも40秒のテスト時にインクを付けすぎてて乾かなかったなど。この理由から安定したインクフローを優先して各インクを入れた万年筆で検証を行ってますので、各インク、字幅の差により多少の差が出てしまっている事、事前にお伝えしておきます。
用紙とインクの相性も気になったので二つの用紙にて検証してみました。年賀状用紙とトモエリバーです。トモエリバーは一般的に乾きが遅いと言われてます。
結果として、乾きの早い順に、
年賀状用紙
プラチナ → モンブラン → セーラー
トモエリバー
プラチナ → セーラー → モンブラン
という結果になりました。
用紙によって乾きの速さが変わるのは、インクと紙の相性があるということでしょう。
裏抜け
続いては裏抜けテスト。
一般的に顔料系インクは裏抜けしづらいと言われてます。実際に筆記してみたところ多くの用紙で裏抜けはありませんでした。
ただ、どのレベルの紙まで裏抜けしないのかは気になるところ。という事で、私が知っている限り裏抜けしやすいと言われている用紙でもテストしてみました。
このテストに選ばれた不名誉な用紙はモレスキンのノート用紙とファイロファックスのリフィルです。
この2つは、ブラックインクの裏抜けテストにて高い頻度で裏抜けする事の確認が取れてます。
こんな感じ。
ファイロは手帳バインダーが本業なのでリフィル(紙)の品質の低さについては開き直ってるのだろうと思いますが、紙を提供する事が生業のモレスキンの用紙が圧倒的に裏抜けするのは意味不明。裏抜けよりも乾きやすさや浸透性など優先するなどの意図があるのか、そもそも万年筆での筆記は想定していないとか、ハードカバーが主で紙はオマケなのか・・・。
はい、それでは検証結果です。
筆記面
裏面
ファイロファックスのリフィルもモレスキンも、モンブランパーマネントインクとプラチナカーボンインクの2つは裏抜けが確認できました。
セーラー極黒はほぼ裏抜けは見られませんでした。(細かく観ると若干あるレベル)
モンブランとプラチナの裏抜け度を比べるとモンブランの方が強く抜けていますので、裏抜けしない順で、
セーラー極黒 → プラチナカーボンインク → モンブランパーマネントインク
という順番になりました。
モンブラン・プラチナは裏抜けするんだ〜と感じる方もいらっしゃるかと思いますが、あくまでも裏抜けしやすい紙でテストした結果です。一般的な用紙であれば、この3つのインクはほとんど裏抜けしないことも確認取れています。
コスト
最後にコスト。せっかくインクを購入するのであればコスパの高いものが良いですね。
容量と金額は以下のようになりまして、
- プラチナカーボンインクブラック1,500円 60ml
- セーラー極黒 2,000円 50ml
- モンブランパーマネントブラック3,000円 60ml
1ml換算すると、
- プラチナカーボンインクブラック 1mlあたり25円
- セーラー極黒 1mlあたり40円
- モンブランパーマネントブラック 1mlあたり50円
となりました。
容量と金額を見ると圧倒的にプラチナカーボンインクに軍配が上がりますね。
まとめ
上記検証の結果を以下にまとめます。
色比較
色が濃い順に、
3位 セーラー
耐水性
2位 セーラー
3位 モンブラン
速乾性
2位 セーラー・モンブラン
裏抜け
2位 プラチナ
3位 モンブラン
コスト
2位 セーラー
3位 モンブラン
結果を見ると、裏抜け以外のテストで全て1位になったのがプラチナカーボンインクでした。
尚、顔料インクの場合、各メーカーが口を揃えていうのが自社の万年筆を使ってくださいということ。プラチナの万年筆にはプラチナカーボンインク、セーラーの万年筆にはセーラー極黒という形で使うことが推奨されています。もしインクが詰まってしまっても他のブランドのインクを使っているのであれば責任は持てませんよということでしょう。
どの顔料インクもしっかりとした耐水性を持っていますので、保有している万年筆に合わせて顔料インクを使用することをお勧めします。
以上、顔料系ブラックインクの比較でした。
黒以外の顔料インクも気になる方へ
なお、せっかく万年筆で年賀状書くのだから、真っ黒ではなくて濃淡のある味のある文字が書きたいという方も多くいらっしゃいます。
セーラー万年筆から、蒼墨と青墨という素晴らしいブルーブラック系の顔料インクも発売されていますので、合わせてご覧ください。
3 件のコメント
お久しぶりです、
ストーリアには黒が無いのでアレですが、カキモリの顔料インクのPianoはいかかでしょうか。
機会があればこの記事の3種と比べていただきたいです。
ねるさん、こんにちは。
カキモリにもブラック系顔料インクがあるんですね。
チェックしてませんでした!
HPで確認したらなかなか素敵なコンセプトのインクですね^^
どこかでお迎えして試してみたいです!